陶芸作家 岡山高大
家を継ぐという感覚はなく、ただ陶芸の人生が魅力的に思えた。
―まずお仕事を始められたきっかけを教えて頂けますか。
きっかけは高校卒業後の進路を決める時ですね。自分の未来を想像した時に、会社で定年まで働いて余生を過ごすのと、定年なく職人・作家として作り続けるのと、どっちがい いかと考えたんです。
物を作るのが好きだったので、後者の方が魅力的に感じて現在の道に進みました。ただ、父親が遊びで工房に入るのをすごく嫌がったので、小さい頃はまったく陶芸に触れることがなかったんですけどね。
なので技術は「岡山製陶所」で働きながら高められていったんだと思います。
「岡山製 陶所」の品質に満たないものは商品にはなりませんので、父親からは「高台の雰囲気が硬 い」とか「フチが厚い」など、作る度にアドバイスはもらっていました。
―「岡山製陶所」として看板に恥じないよう技術を高められていったと思うのですが、別の 窯元や作家さんの元で修行をしたいとは思うことはなかったのですか。
そうですね(笑)今からでもすごい技術を持つ人には弟子入りしたいと思いますよ。ただ、仕事を始めてからほどなくして、技術が磨かれたなと思う出来事があったんです。
縁があって”三島手(みしまで)”の作家さんと仕事をさせて頂いたんです。
年末に干支のぐい吞みを1200個作るという仕事で、3年間一緒にさせて頂いたんです。
これは去年より も良いものを、来年はさらに良いものを作らなければならなかったんですけど、そうして いくことで自然と上手くなっていったという感覚はあります。
“これじゃダメだ”といって作品を割る陶芸家の気持ちはわかるんです。
―大きな仕事を経て技術も磨かれていったということですが、仕事の中で特に重要だと感じ ておられるポイントなどはございますか。
よく聞かれるんですけど、結局どの工程も手は抜けないんですね。
仕事の工程としては、土揉み(成形前に土の中の空気を抜く)があって、土殺し(土の密度を均一にしてクセをとる)、そして成形(形を作る)をして、
素焼き(750度くらいで一度焼く)があって、釉薬(陶磁器の装飾性と強度を高め汚れにくくするもの。
草木の灰やガラス質の粉を水に混ぜている)を掛けて、1200度くらいの温度で焼いて仕上げるのですが、
どれもおろそかにできないんです。
というのも、土揉みで手を抜くと、土殺しに時間がかかる、土殺しで手を抜くと成形できない、
といった具合に前工程のツケが必ず響いてくるんです。
また僕は「亀甲貫入釉(きっこうかんにゅうゆう)」という釉薬(ゆうやく)を掛けて焼いていますが、たまにピンホールと呼ばれる穴があくことがあるんです。
そんな時はふたたび釉薬を埋めて焼き直せば穴も塞がり綺麗に仕上がるものもあるのですが、「亀甲貫入釉」を再度掛けて焼き直しても、気泡が入ってしまい綺麗に仕上がらないんです。
そうなると商品にならないので、イチからやり直しです。
ただ亀甲貫入釉を使うと、亀の甲羅のような貫入が入ったり、二重、三重に貫入が重なったりと表情豊かな美しい仕上がりが楽しめるんです。
そういう他の人がやらないようなことをするのは、個性を出す上で大切にしています。
―そうして出来上がったものは商品なのでしょうか。それとも作品なのでしょうか。
僕の中では明確に商品と作品は分かれているんです。商品というのは問屋さんの目にかなうもの、作品は自分が納得するものなんです。なので、そこで必要なものはまったく違います。
商品に求められるのは、安定した品質のものをいかに早く必要な数量を作り上げられるか、というのが大切だと思います。
そこでは明確に成長というものが見えます。
1時間で10個しか作られなかったものが20個作られるようになったら成長ですから。良い品質のものを正確に早く作るために思考錯誤して、時には作業効率をあげる道具を自作したりもします。
作品は自分が納得するかしないかなので、自分が納得できなかったら、それは表に出さないんです。
コント番組で、作家さんが自分で作った壺を割ったりするシーンがあるじゃないですか。
あの気持ちが僕にはわかるんです。器とか、壺とか形として後世に残ってしまうものだから、残ってしまうくらいだったらこなごなにしたいんだと思うんです。
リスクをとってでも美しい表現を
―世に出てきた作品は結構ユニークなデザインがありますよね。何をモチーフにしておられるのでしょうか。
作品のモチーフには様々なものがありますが、例えば「seeds」という作品は、種の図鑑を見て感化されて作りました。それ以外にも、幾何学模様であったり、昆虫であったり、星など趣味がモチーフになることが多いです。
現在、面白いなと感じているのは、古いレントゲンのカメラを使って撮影された花の写真集。見た時に美しさに感動して、なんとかこれを陶芸で表現できないかな、と考えています。
ただ透き通っているので、さすがにガラスで表現するしかないかもしれませんが。
作家活動は商品へ還元するため
―最後に、職人として作家として、今後の展開をどのようにお考えですか。
「普段は作れないものを作りたい」という挑戦する気持ちが大前提としてあるのですが、作家活動をしているのは商品に還元する為なんです。
原材料の価格が上がっても、商品として卸す時の価格があげにくい業界なので、既存の商品ばかり作り続けていると成長は見込めません。
ですが、作品が商品として認められると既存の商品にはない付加価値をプラスできます。
これは非常に重要なことなんです。現在、この界隈には34の工房がありますが、全盛期だった30年前の約半分の数です。一年にひとつずつ工房が潰れている計算です。
ネットや手作り市のような場所で、だれでも陶器を販売できる時代へと市場が変わった影響が大きいと思います。
ですが、決して工房が暇になっているわけではないんですね。よその工房に話を聞くとみんな忙しいと言います。
うちもそうです。ただそれは、既存の商品だけを作り続けて忙しいんです。
それだと変化し続ける市場の中で、既存の商売をしている業界は先細っていく未来しか見えないんです。
なので職人として生きていくためには市場の変化を見据えて、勝ち残っていける付加価値を商品に与えるしかないと考えています。
作品作りには表現する楽しさもありますが、これから陶芸で生きていくためには必要な 活動だと感じています。
【織人紹介】
陶芸作家 岡山高大(41)
1976年 京都市に生まれる
1999年 成安造形大学造形学部造形美術科造形表現群ファイバーアートクラス卒業
2000年 京都府立陶工高等技術専門校成形科修了
2001年 京都府立陶工高等技術専門校研究科修了
2002年 京都市工業試験場「みやこ技塾京都市伝統産業技術者研修 陶磁器コース」本科
【工房説明】
岡山製陶所
京焼・清水焼の産地のひとつ東山泉涌寺エリア。閑静な住宅地には職住一体のものから、 工場のような大きなものまで大小様々な工房が点在する。「岡山製陶所」の岡山高大さん の工房は、もともと民家だった建物を工房兼店舗・ギャラリーに改装したそう。多くの作 品に囲まれた空間で岡山さんの創作の原点に迫ります。
【工房情報】
岡山製陶所
〒605-0976 京都市東山区泉涌寺東林町39
Tel 075-561-5263
作者情報
編集:西野愛菜
ライター:中川直幸(KOTO KURAS)
デザイン:上田亜友美
撮影:大木脩