職人をまとめる「染匠」という仕事


染匠 市川昌史

染匠 市川昌史

京手描友禅「染匠」という仕事

−よろしくお願いします。まず、どのような仕事をされているのですか。

よろしくお願いします。まず、京手描友禅には20ほどの工程があります。下絵は下絵屋さん、友禅は友禅屋さんがいるという感じですね。その各工程ごとにスペシャリストの職人さんがいます。

その各スペシャリストの職人さんの集まりで出来上がる作品が京手描友禅なんです。私達は簡単に言うと、その全般を統括する総合プロデューサーですね。

注文が入るとまずは構想を練り下絵屋さんに描いてもらいます。そして、下絵が出来れば出来たものを受け取って確認し、問題がなければ次の工程に持っていく。その繰り返しです。

なので、日中は職人さんの所に行って、仕事を持って行く。持って行ったのと同時に仕事を回収してくる。確認して次の所に回す。

お昼からは、問屋さんや小売り屋さんの所に行き、納品したりとか、新商品の打ち合わせをしたりとかそういったことをしています。そういう仕事が「染匠」と呼ばれる仕事です。

私達は絵を描くことも友禅をすることもしません。だから、スペシャリストの職人さんに任せます。

職人さんの性格や得意分野は各々違うので、例えば友禅屋さんであれば、この色出させたらうまいとか。ぼかしは上手いけど、スピードが遅いとか。

それをその時の状況に合わせて急いでいる商品ならば早くできるところに、得意先から値段の上限がある場合は安くできる所に持っていくなど考えて分配します。

職人さんを選別して、出来上がりのイメージをしっかり作っていく役割が染匠にはあります。

−なるほど。職人さんを統括する役割があるんですね。

ウチでは一点物の手描き友禅をやっているので、それほどたくさんの物は動かしていないです。それでも、年間に約1000反ぐらいは動かしていますね。

その中で下絵屋さんは、4軒か5軒あります。友禅屋さんで6軒、金屋さんで2軒、刺繍で2軒ぐらいです。まーそれぐらいで、事足りるかなってところですね。

しかし、今は職人さんの中にも高齢化で辞めていく人もたくさんいます。

−昔からすると職人さんの数も減ってきてるのですか。

そりゃもうぜんぜん減って来ていますよ。もう高齢になって仕事がなくなってきたら職人を辞めて、アルバイトしてる方がましって話になりますからね。

暇な閑散期もあるので、生活するのが苦しくなってしまうんです。例え息子さんがいたとしても月20万円に満たない収入で継ぐかというと、そうではない。もちろん友禅の生産反数も何十分の一になっています。

私達は絵を描くことも友禅をすることもしません。だから、スペシャリストの職人さんに任せます。職人さんの性格や得意分野は各々違うので、例えば友禅屋さんであれば、この色出させたらうまいとか。ぼかしは上手いけど、スピードが遅いとか。それをその時の状況に合わせて急いでいる商品ならば早くできるところに、得意先から値段の上限がある場合は安くできる所に持っていくなど考えて分配します。職人さんを選別して、出来上がりのイメージをしっかり作っていく役割が染匠にはあります。

京手描友禅の数ある工程

―京手描友禅の工程を、少し教えてもらえますか。

京手描友禅には、20工程ほどあります。どんな柄にするか考え、まずは正絹の反物の生地目をしっかり揃え整える<湯のし>をします。

次にどの部分が袖になるかなど印を付けます。それが、<墨打ち>です。

その後、<下絵羽>と言って一度生地を仮縫いします。

そして<下絵>を描いていきます。イメージしたものを下絵屋さんで下絵を描いてもらいます。加工途中に見えなくなるよう、水で消える青花液というもので描いているんですよ。今は化学薬品に代わっていますが、昔は露草の花弁からとった青花液を使っていました。

次は、<糊糸目>に入ります。糊糸目は、餅米とヌカを炊き合わせたものを練り冷凍保存し、それを解凍しながら使います。糸目には糊糸目とゴム糸目がありますが、糊糸目は出来上がりが柔らかい感じの線で仕上がります。それに対してゴム糸目は、シャープに仕上がります。どちらを使うかは、柄によって使い分けます。

その後、生地と糊糸目の間に隙間があるので、生地に糊をくっ付かせる<地入れ>をします。反物をしっかり伸ばし、全体に糊水を引いて生地と糊をくっ付けます。地入れ屋さんというこれを専門にする職人さんもいます。

その地入れが乾いてから、色を挿していきます。色を挿すことを<友禅をする>と言います。

友禅屋さんには色見本を参考に、「この花は白と朱色を使って、そのバランスは7対3で」など色見や濃度は指示しますが、どこにどの色を配置するかなど細かいところまでは指示をしません。そこは職人さんのセンスや感覚にお任せですね。

友禅をした後は、<蒸し>の工程に入ります。専用の蒸し箱に入れて行います。もちろん、蒸し屋さんに任せます。

今度は、地色を染める時に模様に色が入らないよう<伏糊>という工程をします。仕上がりは空気に触れると乾燥して割れるので割れないよう、ビニール袋に入れ伏糊屋さんから渡って来ます。

その後、引染屋さんで<引染>を行います。生地に刷毛で染料液を染めていきます。

それが終わると、色を定着させるために2度目の<蒸し>をします。色は定着しますが、染料粉や不純物が残ります。なので、水で洗い流す<水元>を行います。

昔は、自然染料を使っていたので“友禅流し”と呼ばれ鴨川などで行っていました。ですが、明治時代から化学染料を使いだし川でできなくなったので、蒸し工場に人工の川を作り地下水を引っ張ってそこで流しています。

その後、再び<湯のし>をし、シワを伸ばします。さらに化粧をしていきます。

金屋さんで金箔を置いたり、刺繍をします。

そして、最後に下絵屋さんに仕上げをしてもらいます。金泥で花の蕊(しべ)や葉脈を描いたり、<糸目消し>というあえて白い糸目を花の色に近い色で塗るなど一手間をかけることで、その一つの柄にも立体感が出るんです。

ざっとですが、ここまでが京手描友禅の工程になります。

京手描友禅には、20工程ほどあります。どんな柄にするか考え、まずは正絹の反物の生地目をしっかり揃え整える<湯のし>をします。次にどの部分が袖になるかなど印を付けます。それが、<墨打ち>です。  その後、<下絵羽>と言って一度生地を仮縫いします。  そして<下絵>を描いていきます。イメージしたものを下絵屋さんで下絵を描いてもらいます。加工途中に見えなくなるよう、水で消える青花液というもので描いているんですよ。今は化学薬品に代わっていますが、昔は露草の花弁からとった青花液を使っていました。  次は、<糊糸目>に入ります。糊糸目は、餅米とヌカを炊き合わせたものを練り冷凍保存し、それを解凍しながら使います。糸目には糊糸目とゴム糸目がありますが、糊糸目は出来上がりが柔らかい感じの線で仕上がります。それに対してゴム糸目は、シャープに仕上がります。どちらを使うかは、柄によって使い分けます。

流通について

―着物の需要を増やすという意味では何が大切でしょうか。

自分で着られる人が増えれば、何かの時に着物を着て行こうとなると思いますが、今の時代では、着付けも管理もめんどくさいから着ない人が多い。

だから、まず知ってもらうことが大切だと思っています。私たちは、学生さんに着付けを学んで文化体験をしてもらう「きものゼミ」や、「きものde婚活」など、着物を着てもらうきっかけや機会作りになる和装新興事業もやっています。

ですが、それがすぐに業界の活性化につながるというわけではありません。

なので、少しずつファンが増えるよう色んな方策を考え、また「京友禅」ってどういうものか、どのようにして作られているのかということを一人でも多くの人に知ってもらう活動をしていくことが大切ですね。

―では、最後に今後行っていくべきだと感じることはどんなことでしょうか

今は市場に出ている振袖のほとんどがインクジェットプリントとなり、手描き友禅で制作されているものは1割程度だと言われています。

手描き友禅は一つ一つ丁寧に仕事を重ねていくものなので、それなりに時間がかかります。友禅だけでも、1ヶ月かかりますからね。それだけ職人の手間がかかっているわけですから、その対価を職人さんに支払わなければならない。

そして、出来上がった着物は私たちから問屋を経由して呉服店、消費者へと渡るわけですが、流通をしっかり通ればもちろん着物の価格は高くなってしまいますよね。

私たちが直接消費者に売れば、消費者にも喜んでもらえると思いますが、そういった流通を飛び越えた商売は私たちには難しいです。

でも、ものづくりができる強味がウチにはあります。だから、今後はそれをどう生かして行くか。問屋さんが無くなる時代が今後来るかもしれないわけですよ。

だから、その時にどう対応していくかは準備して考えておかないといけないと思っています。

紹介

市川昌史

1976年 京都市に生まれる
1999年 同志社大学経済学部卒業
1999年 イタリヤード(株)入社
2005年 家業を継ぐため(株)雅染匠にて修行
2007年 染匠市川(株)に入社
2014年 取締役に就任

京都工芸染匠協同組合青年部 会員
京都染色美術協会 会員
京都染織青年団体協議会 相談役
きもの文化検定実行委員会 所属

会社説明

染匠市川株式会社

昭和21年 先代市川兼次が職人をまとめ悉皆業を始める
昭和48年 染匠市川㈱設立

会社情報

染匠市川株式会社

〒604-0003京都府京都市中京区衣棚通夷川上る花立町262
染匠市川 webサイト

作者情報

編集:西野愛菜
撮影:田安仁
構成:倪

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