朝がちょっぴり、肌寒くなってきたこの季節。ちょうどこの日から、ほんの少し秋を感じたように思います。
そんな、秋が始まった日。4名の参加者さんと一緒に、綴織の体験をさせて頂くため1軒の工房を訪ねました。
工房の名前は、「奏絲綴苑」
正方形なのかな。黄色い板に書かれたその文字は、あまりにも小さくて通り過ぎてしまいそう。そんな看板の下をくぐり、細い路地に入っていくと手機の音が聞こえてきます。町屋でも家でもなく、物置のように見えてしまう工房。
ドアを開けると、たくさんの手機と織り手さんがおられました。日曜日という事で、来ておられる方がたくさん。
「こんにちは、今日はよろしくお願いします。」と中に入っていくと、「どうぞー」と出迎えてくれたのは、工房の主人(職人さん)平野喜久雄さん。ちょっぴり緊張した面持ちで参加者の方も中へ。
まずは、工房の真ん中にあるイスに座り。平野さんからの挨拶を済ましたあと、ビデオを見ながら「爪掻本綴織(つめがきほんつづれおり)」の説明をしてもらいました。以前にインタビューをさせてさせて頂いた職人さんですが、ビデオを見ることでより詳しく知ることができました。
お決まりのように、「本当に爪をギザギザにしてるんだー」という言葉は口からこぼれてきますね。
ひと通り、ビデオで説明をしてもらったあとは。「ビデオを見るだけじゃ、面白くないですよね。せっかく来てもらったんだし、体験しなきゃ」という平野さんの言葉を合図に、さっそく体験をさせて頂くことに。
まずは、織りこむ緯糸(よこいと)の色を選びます。目の前にあった糸を思わず見つめる皆さん。コンピューターでは出せない、濃淡が付いた色糸がたくさん。悩みどころだと思ったら、あっという間に決まりちょっとびっくり。それでも、それぞれ違う色を選んでいて、どんな物ができるのかワクワク。
まずは、くくり方から。綴織独特のくくり方ではないですが、糸と糸をくくる方法を教えてもらいました。こういうくくり方をすれば、片方を引っ張るとすぐにとれるそうです。
簡単にやってしまう平野さんを見ながら、やってみるもなかなか難しい。くくり方、一つにしても初めて体験でした。
続いて、「割竹」。撚った糸を半分に割り、杼(ひ)に入るようまた巻き付けて行きます。この工程では、金属製の道具を使います。
ここでも、「6回くらい回して、指を入れて糸を半分に割って。また、回して。。。」と教えてもらうものの、何回回したのか分からなくなることも。工房におられた織り手さんにも手伝ってもらいながら、ゆっくりゆっくり。
それができたら、ついに「織り」の工程へ。最初は、手本を見せてもらいながら、何とかスタート。
平野さんの手元を食い入るように見つめながら、どうやって織っていくのか確認。やっぱり、体を前のめりにしながら見て出来るようになりたいですもんね。
おっとっとっと、始めてしまうと参加者さんの分までつい進めてしまう平野さん。お手本だけにしてください。笑
そして、1人で織るのが始まります。足を上げたり下げたりしながら、経糸(たていと)を動かし。間が空いたスペースに緯糸を通していきます。
少し織ったら、また平野さんがのぞきに。「そこくらいで止めて。次は、こうしましょう」とまた交代。
「1年いって、2年いって。。。」と平野さんの掛け声。織っていく時の進める順番を「~年」というそうです。
そして、また参加者さんが織っていく番。「1回いって、足上げて、こうして。。。。」と、自然と数えてしまう。数えながらやらないと、どこまでやったのか忘れてしまいますよね。
師匠と弟子の関係ではないけれど、同じ綴織というものづくりに向かう者として、隣り合った2人の背中は輝いて見えました。
綴織を仕事にして継いでいくという訳ではなく、この一瞬だけかもしれませんが2人の手が交わる瞬間には、人から人へ受け継いでいくものがあると感じています。
機が近かったため、横でやっているのをのぞく姿もたびたび。「きれいにできてるー」と嬉しそうな顔。ひと通り、織りあがった後は少し休憩の時間。
工房の一角がショールームのようになっており、そこには綴織のイヤリングやブレスレットが並んでいます。
棚の上には、ランプシェードも。夜になって明りを灯すときれいですね。
そして、額縁に入れられ壁に飾られているものは、絵かと思いきやまさかの綴織。そう、綴織で織られた、絵画のような織物なのです。
驚きを隠せない、参加者さん。もうここまでくると最初の緊張もほどけ、笑顔で平野さんとおしゃべり。
さて仕上げを行い。。。
やっと、しおりの完成です。お疲れさまでしたー。
最後は、皆さんで写真を1枚。
皆さん、笑顔で終われてよかったです。
そして、少しの雑談と「ありがとうございました」の挨拶を済ませたあとは、それぞれの帰路に。
確かに「ものづくり」「手仕事」と呼ばれるものは、高いです。原材料や作業時間を考えると、どうしても高くなってしまう場合があります。でも、人の手で作られているからこそ、感じられる風合いや、伝わる想いがあります。
「手仕事を残したいと思いながらも、買えないし」と思っている方は、是非体験や見学を通して実際のげんばを見に行ってみてください。そうして、関わってみることだけでも「残す」ことになるのかもしれません。
今回、お世話になった平野さん、奏絲綴苑の織り手さん、そして参加者の皆さん、本当にありがとうございました。
作者情報
ライター:西野愛菜
撮影:西野愛菜