「藍」
それは深みのある色で、何度も何度も浸けて染めていくことで濃淡が変化していく色。古くからジャパンブルーと言われ親しまれてきた。
その栽培方法や染料を作り出すためには大変な作業が必要になる。だからこそ、独特な色合いが出るのかもしれない。
そんな、藍染体験ができる場所が滋賀県湖南市にあると聞き、造形大の女子と編集長/西野の女子2人組で訪れてみることにした。
京都から近江八幡まで電車に乗り、そこからバスに乗り継ぐこと1時間半。いつの間にか辺りは田んぼだらけ。人っ子一人歩いていないなぁ、と思ってしまうような場所でバスを降り、少し歩いた所に今回藍染体験をさせてもらう「紺喜染織」さんがある。
さっそく暖簾をくぐり中へ。入ってみるとお母さんが笑顔で出迎えてくださった。そして、奥からお父さんも出てきてくださって。「よろしくお願いします!」と挨拶。なんだか、楽しくなりそうだ。
まずは、藍染の話をしてもらうことに。まず見せてもらったのは、藍の種。初めて見る藍の種に、驚きつつ。この種から苗を育て、葉を摘み取り、「スクモ」にしていく。スクモは、藍の葉を発酵・熟成させたものでいわば藍染の原料となるものだ。
紺喜染織さんには、このスクモを固形化した「藍玉」もあった。こうすることで、保存ができるのだとか。建物の中を見回していると、藍で染められた暖簾や物がたくさん。匂いも独特な匂いがした。
この道60年になること、昔は紺屋(こうや)と呼ばれ藍染をした物を問屋さんに卸していたこと、藍でなければ出すことのできない色の深みがあること、などを話してもらった。
いつものことだが、職人さんと話をしているとなかなか話が途切れない。でも、満面の笑顔で話してくださる姿を見ているとこの微笑ましい空気を壊したくないと思ってしまった。
しばらくして、どんな色にしたい?という話になり藍染体験がスタート。まずは、色見本として藍染をした糸を見せてもらい、どんな色がいいのか吟味。同じ藍でも色の濃淡が違うことが面白く、つい迷ってしまった。薄いのがいいのかな、濃いのがいいのかな。今回染めるのは、中風呂敷サイズのちりめん生地と大風呂敷サイズの綿生地だ。
色が決まった所で、まずはお湯に通して生地を柔らかくして。よく絞り水気を飛ばした後は、さっそく藍ツボのある部屋へ。
藍ツボは、想像していたのより小さめで、でも底が見えないほど深かった。全部で8つの藍ツボにはそれぞれ濃度が違う藍が入っており、濃度が低いものから順番に生地を浸けていく。
驚いたことにかき混ぜるための棒を入れた途端、それまで濃い青色のような藍が泥水のような色に変った。染めた後は藍色になるのに、染料は泥色。なんとも不思議な現象だった。
浸けては絞って、浸けては絞ってを繰り返していく。ツボの中に手を入れると、熱いと思うほど熱くはなく、冷たいと思うほど冷たくもない。言うならば、体温に近い温度だ。まるで、藍が生きているかのような温度だった。
同じ藍なのに、浸けていくほど少しずつ色が変わっていくことが面白くて楽しくなる。お父さんからは「ちょっと濃いめくらいの方が、いい感じになるからね」と言われ。どれくらいの色にしたらいいのかなぁ。ここでももう一回浸ける?浸けない?とまた迷ってしまった。
ちりめん生地は薄い色にしたかったので早めに終わり、綿生地は何度も浸けてみた。「これくらいかな」というところで2つの生地が染めあがる。
よし、最後は水洗い。冬が始まるこの時期に水とは。。手を冷たくしながら、水で洗うことに。洗っていると染料が出てきて、水がきれいな水色に染まる。なんだかそれも、趣きがある。
水洗いが終わった後は硬く絞って、、完成!
ちりめん生地も綿生地もなんとも深みのある色に染まった。ちりめんは、シボと呼ばれる凹凸が浮き出してきて光沢のある感じに。綿は、少しざらっとした肌ざわりに深みのある色が重なっていた。染めあがった生地を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
お父さんとお母さんにも「うわぁー、綺麗に染まってるね」とほめてもらい。取り敢えず一安心。
ずっと作業をしていたので少し休憩。また、話しが弾んだ。最後にみんなで写真撮影をした後は、お2人に「ありがとうございました!」とお礼を言って帰路に。
バスを待っている間、彼女は飛び回るほどはしゃいでいた。よっぽど藍染体験ができ、綺麗な色合いに染められたのが嬉しかったのだろう。こういう姿を見ていると、手仕事や工芸というものは人を喜ばせ笑顔にする力があるように思う。
そんな彼女と「空の青とも、服の青とも、マフラーの青とも違うよね。藍にしか出せない、色合いと深みがあるよね」と話す。コトバでは、つい「青」と言ってしまうのだけど、一つ一つがどれも違う色で。藍には藍にしか出せない色合いと深みがある。それが、藍で染めてみることの面白さだ。
今回藍染体験をさせてもらった紺喜染織さん、本当にありがとうございました。
writer:西野愛菜
photographer:西野愛菜