小旅行気分で訪れた、京都府与謝野町。
夜に雪が降ったようで、行きの道は辺り一面雪景色。ちょっぴり興奮気味のまま早めに到着し。
さぁ、織物の町与謝野での1日が始まった。
<YOSANO TEXTILE EXPERIENCE とは>
織物の町、与謝野を舞台に原田美帆さんが開催されている、織物制作と機屋見学が1日に濃縮されたプログラム。織物制作では、図案を選ぶプレデザインコース、参加者が図案を考えるマイデザインコース、図案を起こしてもらうフルオーダーコースがある。
初めに訪れたのは、機屋「株式会社ワタマサ」さん。まさか、鉄筋で覆われた建物が機屋さんだったとは思わなかった。「こんにちは、今日はよろしくお願いします!」と早速中へ。そこには、すでに主催の原田さんもおられた。いよいよYOSANO TEXTILE EXPERIENCEが始まる。
株式会社ワタマサの渡邉さんから、簡単にお蚕さんが吐く糸の話、そこからどうやって使える糸にしていくのか話してもらった。お蚕さんの繭にはセリシンと呼ばれる糊の役割をするタンパク質が付いていて、、、なんて話。
しばらくして、珈琲が運ばれてきた。
話をしてもらい、気もほぐれた所で、少し離れた場所にある機屋を見学だ。今度は鉄筋の建物ではなく、これぞ機屋!と言わんばかりに大きな町屋が見えて来た。機屋格子と呼ばれる格子が付いていて機屋さん、染屋さん、糸屋さんで間の木の数が違うらしい。そんなの初めて知った。
どんどん中に進んで行くと、突然機場が現れる。ここから、細い1本の糸が人の肌を覆う織物になる旅が始まる。
まずはカセの状態の生糸を洗い乾燥。「お蚕さんは、人間の為に糸を吐くんじゃなく子孫を残すために吐いていて。だから、ゴミが付いていたり不都合があるのは当たり前のことなんだよ」と渡邉さん。当たり前のことだが、お蚕さんの事をそんな風に考えたことはなかった。
乾燥が終われば、糸繰りへ。幼い頃から何度となく見てきた「糸繰り」。この日は動いてなかったが、見ているだけでクルクル回る音や大きな繭のように糸枠に巻かれていく様子を思い出す。なんだか、ほっこりした。
糸繰りの後は、整経の旅へ。うっすら目に見えるくらい細い糸が、どんどん大きなドラムに巻かれていく。
お蚕さんからしてみれば、自分が吐いた糸が一本一本巻き取られ、剥いでいかれるなんて思ってもみない事なんだろうなぁ。
そして撚糸機で撚りをかけ、丹後ちりめん特有のシボのもとを作っていく。撚糸機を高速で回転させ、撚りをかけていく光景に「おー」という歓声があがる。
株式会社ワタマサさんでは、シボのある丹後ちりめんはもちろんのこと、シボの無いちりめんや先染をした反物も織られている。
いよいよ、織られる製織へ。ガシャンガシャンという力強い音をたてながら、目の前にはジャガードが付いた力織機がずらりと並ぶ。まるで先導する先生の説明を聞かず、キラキラした目でよそ見しながら進む園児たちのよう。
そんな園児たちは、真上で動いてるジャガードが見たくなって、ついには駆け登ってしまった。
外れたら下がり、引っかかったら上がるジャガードを見ていると、まるで踊っているようだ。
そんな、機屋見学も終盤。よそ見をしていると機場の一角には、1人の職人さんがいた。薄暗い機場の中で、職人さんが無心で手を動かしている瞬間。それは時間が止まって欲しいと願うほど、ずっと見ていたい瞬間だった。もう本当にかっこいい。
「確かに与謝野には、丹後ちりめんが伝統産業として根付いてる。だけど、その時その時の最先端をやって、後から振り返った時に伝統と言われるだけであって。別に守るために織物をやっている訳ではないからね。」と語る渡邉さん。そこには伝統を守るためではなく、今できる最高の織物を届けたい、という意気込みが感じられた。
そして、快く機屋見学をさせて下さった渡邉さんにお礼を言い、お昼ご飯を食べに「北欧ダイニング クッチーニ」へ向かう。
元々、紋紙の倉庫だった場所をレストランにしたそうだ。こんな所にも、織物の町らしさがにじみ出ている。
しばらくして、それぞれの注文が運ばれてくる。丹後で採れた魚や野菜を使って作られたパスタはしつこなく、あっさりした味だった。
ふと大きな窓ガラスに目を向けると、頭にヘルメットをかぶり自転車に乗る中学生の姿が見える。のどかな景色だなぁ。
お昼を食べ終わると、時間もあまりなかったのでそそくさと店を後に。さぁ、いよいよ織物制作をするため「与謝野町織物技能訓練センター」へ。
着くと原田さんが師匠と慕う尾関正巳さんが出迎えて下さった。ここでは、手機でコースター制作とジャガード式レピア織機での広幅織物制作をさせてもらう。
まず、経糸と緯糸がどんな風に交差し織物ができるのか原田さんからレクチャーを受ける。「経と緯という漢字は、経度と緯度の漢字と同じ。経度と緯度は空間の座標を表すように、経糸と緯糸は立体的に交差し、一つの織物ができあがる。だからこそ、織物は立体であり彫刻である」
その様子を見ていた尾関さんは、まるで子供の成長を見守る親のようだった。
マイデザインコースを選んだ人は、事前に考えてきたデザインをどの組織(織り方)で織るのか選ぶ所から始まる。用意されていた何十種類とある組織のサンプルを見ながら、ここは目立たせたいからこの組織、あっでもこっちもいいかも、これとこれを合わせてみたら面白くなるんじゃない、と組織の組み合わせを吟味。さすがにこれは迷ってしまう。
そして、迷いながらも時間をかけて選んだ組織をデータに落とし込む。まずは色番号と組織番号を、、、とパソコン上であっという間にデータ化。そして、ものの数分で組織図ができあがった。
データをUSBに入れ、「これをレピア織機に差し込めばもうできちゃうよ」と言う原田さんは少し興奮気味。
そして、レピア織機にデータを差し込みスタート。まるで波打つような音を建てながら、シャットルが端から端まで糸を運んでいく。その様子を前のめりになりながら楽しそうに見ている、原田さんとデザインを考えた参加者さん。
その2人を見ているとなんだかこっちまで楽しくなってきた。そうやって楽しさは連鎖していくのだと思う。
そして20分ほどで完成。織終わった途端、2人の「うわぁできたー、めっちゃ感動!」とはしゃぐ声が聞こえてきた。今まで紙だったものが、形になって手にとれる物になる瞬間が嬉しかったそうだ。
原田さん曰く「考えた図案がすぐに織物になっていく所が、3Dプリンターに似ていて。組織の組み合わせだけで、こんなに見え方や感触が違って。しかもそれが無限とある。それだけで、ほんと面白い」
レピア織機では一度に1つしか織れないので、その間他の参加者さんは手機でコースター制作。「右足を踏んで経糸があがったら右から糸を通して、次は左足を踏んで左から糸を通して、、」と尾関さんに教えてもらう。
が、足と手が絡まりそうで悪戦苦闘。
編み物のようにふんわり織るか、かたく織るかで風合いが変わり、それぞれの性格がでる。もちろん手機なので時間がかかってしまうが、織った人が織物にそのままでてくる所が手機の良さだ。
尾関さん曰く「どんな物でも同じ。種として撒いた野菜が、食べれる大きさに成長して収穫できた時って嬉しいやろ。それと同じ喜びが織物にもあるんだよ」
そして、気が付けばレピア織機で織った広幅の布と手機で織ったコースターが出来上がっていた。そろそろ、帰りの時間も近づきみんなで写真撮影をしてそれぞれの帰路に。
今回のYOSANO TEXTILE EXPERIENCE。誰よりも楽しんでいたのは、原田さんのように思う。それは、自分が好きな織物というものを体験してもらえること、実際にやりたい見たいと言ってくれる人がいるということ、そして純粋に「織物って面白い」という想いを共有できたからなのだろう。
そして、今回出会った株式会社ワタマサの渡邉さん、尾関さん、原田さんのように与謝野という町には織物を楽しんでいる大人たちがいた。
writer:西野 愛菜
photographer:akitsu okd