割れてしまったお気に入りの器を、漆と金で美しく修復する「金継ぎ」。一見すると専門的な道具が多くて難しそうに思えますが、基本の道具さえ揃えれば自宅で始めることができます。大切な器を自分の手で蘇らせるために、まずはどのような道具が必要なのか、その選び方と使い方を詳しく見ていきましょう。
金継ぎの道具はまずこれを揃える
金継ぎを始めるには、土台となる「漆」や接着のための「粉」、そして仕上げの「金粉」など、いくつかの専門的な道具が必要です。最近では初心者が迷わず始められるセットも充実していますが、まずはそれぞれの道具がどのような役割を持っているのか、基本のラインナップを整理して理解することから始めましょう。
初心者向け最低限セット
金継ぎをこれから始める方にとって、最も安心で効率的なのは「金継ぎキット」を購入することです。キットには、接着に必要な生漆(きうるし)や小麦粉、形を整えるための砥粉(とのこ)、仕上げの金粉、そして筆やヘラといった基本ツールがすべてパッケージ化されています。バラバラに買い揃える手間が省けるだけでなく、それぞれの材料の分量が初心者向けに調整されているため、失敗のリスクを大幅に減らすことができます。
最低限必要なセット内容としては、天然の漆、接着剤を作るための小麦粉、隙間を埋めるための砥粉、表面を研ぐための耐水ペーパー、そして金粉を蒔くための筆が挙げられます。また、漆を扱う際に欠かせないゴム手袋や、漆を薄めるためのテレピン油、筆を洗うための菜種油などもセットに含まれているか確認しましょう。これらの道具が揃っていれば、小さな欠けや単純な割れの修復であればすぐに取り掛かることが可能です。
最近のキットは、写真付きの丁寧な解説書や、動画解説へのリンクがついているものも多く、独学でも進めやすい工夫が凝らされています。まずはこうしたオールインワンのセットから入り、作業に慣れてきたら自分の好みに合った筆や、より純度の高い金粉を個別に買い足していくのが、最も賢い道具の揃え方と言えます。
接着に使う道具類
金継ぎにおける「接着」は、市販の瞬間接着剤を使うのとは全く異なるプロセスです。伝統的な手法では、天然の「生漆」に「小麦粉」を混ぜた「麦漆(むぎうるし)」という自家製の接着剤を作ります。この麦漆を作るために必要なのが、材料を練り合わせるための「作業板(ガラス板やプラスチック板)」と、均一に混ぜ合わせるための「ヘラ」です。
ヘラは、竹製やプラスチック製のものがありますが、漆の粘りに負けない適度な「しなり」があるものを選んでください。小麦粉と水を練ってから漆を加えていく作業は、ダマが残らないよう丁寧に練る必要があるため、持ちやすく力の入りやすいヘラが重宝します。また、接着した破片がズレないように固定するための「マスキングテープ」や「輪ゴム」も、接着工程では欠かせない名脇役です。
さらに、接着面をあえて少し削って漆の食いつきを良くするために、ダイヤモンドやすりやリューターを使うこともあります。接着は金継ぎの強度の要となる工程ですので、漆の計量に使うスポイトや、練り合わせた麦漆を保存しておくための小さなラップなども準備しておくと、作業がよりスムーズに進みます。
補填用の砥粉と刻苧
器の欠片を紛失してしまった場合や、大きな欠けがある場合には、その穴を埋めるための材料が必要です。ここで使われるのが「砥粉(とのこ)」と「刻苧(こくそ)」です。砥粉は粘土を細かく砕いたような粉末で、生漆と混ぜることで「錆漆(さびうるし)」というパテ状の材料になります。これは表面の細かな凹凸や、わずかな隙間を埋めるのに適しています。
一方、大きな欠損を埋めるために使われる「刻苧」は、生漆に木粉や小麦粉、時には細かく切った綿などを混ぜた、より強固な補填材です。これを自作するためには、良質な木粉や砥粉を常備しておく必要があります。これらの材料を混ぜ合わせる際もヘラを使用しますが、錆漆用には少し小さめのヘラがあると、細かな箇所への充填がしやすくなります。
これらの補填材は、一度に厚く盛りすぎると漆が乾かなくなってしまうため、数回に分けて少しずつ盛り上げていくのが基本です。そのため、少量の材料を正確に混ぜ合わせられる小さな計量スプーンや、パテの表面を滑らかに整えるための細かなパレットナイフなどがあると、仕上がりの美しさが格段に変わります。
塗りと研ぎに必要な工具
金継ぎの工程の多くは「塗っては研ぐ」という繰り返しの作業です。漆を塗るために必要なのは、毛先が繊細で漆の含みが良い「漆筆(うるしふで)」です。特に仕上げに近い工程で使う絵漆(えうるし)用の筆は、ネズミの毛などを使った腰の強い面相筆が好まれます。初心者の場合は、細い線が描きやすい面相筆を一本持っておくだけでも、多くの作業をカバーできます。
研ぎの工程では「耐水ペーパー」が主役です。粗い400番程度から、仕上げに近い1500番や2000番程度まで、数種類の番手を揃えておきましょう。水をつけて研ぐことで摩擦熱を抑え、表面を鏡のように滑らかに整えていきます。伝統的な手法では「駿河炭(するがずみ)」などの炭を使って研ぐこともありますが、現代の金継ぎでは耐水ペーパーの方が手軽で均一に研ぎやすいため一般的です。
また、研ぐ際に使う少量の水を入れる容器や、研いだ後の水分を拭き取るための清潔な布(ガーゼや不織布)も用意しましょう。漆を塗る場所を限定するために、周囲を保護するマスキングテープも頻繁に使用します。「塗る」ための筆と「研ぐ」ためのヤスリを適切に使い分けることが、プロのような美しい仕上がりへの近道です。
金粉や銀粉などの装飾材
金継ぎの最も華やかな工程である「粉蒔き」で使用するのが、金粉や銀粉、真鍮粉などの金属粉です。これらは粒子の細かさや形状によって、仕上がりの輝きが大きく異なります。初心者が扱いやすいのは「消粉(けしふん)」と呼ばれる非常に粒子の細かい粉で、筆で優しく撫でるだけで漆に定着し、落ち着いた上品な輝きを放ちます。
一方、より強い輝きや立体感を出したい場合は「丸粉(まるふん)」を使用しますが、これは後に研磨する必要があるため、少し技術を要します。予算に応じて、本物の金粉の代わりに手頃な真鍮粉を使うことも可能ですが、食品に触れる器の場合は、安全性の観点から純金粉(24金)や純銀粉を選ぶのが賢明です。最近では、アレルギーの心配が少ないプラチナ粉なども注目されています。
粉を保管する際は、湿気や静電気を防ぐために小さな薬瓶やフィルムケースに入れ、使う分だけを「粉皿」に出して使用します。金粉は非常に高価ですので、一粒も無駄にしないよう、作業台には大きな白い紙を敷き、こぼれた粉を回収できるように準備しておくのが金継ぎ愛好家のマナーです。
作業保護のための小物
金継ぎは繊細で美しい作業ですが、天然の漆を扱う以上、身体を守るための保護具は絶対に欠かせません。最も重要なのは「ゴム手袋(ニトリル手袋)」です。漆が直接肌に触れると、ひどいかぶれを引き起こす可能性があるため、作業中は常に着用してください。指先の感覚を損なわない薄手のタイプがおすすめです。
また、漆が服につくと洗濯しても落ちないため、専用のエプロンや汚れても良い長袖の服を用意しましょう。作業中に誤って顔を触らないよう、髪をまとめたりマスクを着用したりするのも良い対策です。もし漆が肌についてしまった場合に備え、拭き取り用の「菜種油(サラダ油でも可)」と、油を拭き取るための布やティッシュも常に手の届くところに配置しておきます。
さらに、作業環境を保護するために、机の上に敷く新聞紙やシリコンマット、筆を洗うための灯油やテレピン油を入れる小さな瓶、使い終わった道具を拭くためのウェス(古布)なども揃えておきましょう。これらの小物をしっかり準備しておくことで、掃除の手間が減り、作品作りに集中できる快適な環境が整います。
工程別に見る金継ぎの道具一覧
金継ぎは、割れた器が元の形に戻り、さらに美しく飾られるまで、いくつかの段階を経て進んでいきます。それぞれの工程で、必要とされる道具や器具は異なります。ここでは、作業の流れに沿って、どのタイミングでどのような道具が活躍するのかを具体的に整理してご紹介します。
破片接着で使う器具
最初の工程である「破片の接着」では、パズルのように破片を組み合わせ、元の形を再構築します。ここで活躍するのは、接着剤となる「麦漆(むぎうるし)」を作るための道具です。生漆、小麦粉、水を正確に混ぜ合わせるために、少量の水を量るスポイトや、材料を練るためのガラスプレート、そして腰の強い竹ベラが必要になります。
接着した直後の器は非常に不安定ですので、これを固定するための道具も重要です。強力な粘着力がありながら剥がし跡が残りにくい「マスキングテープ」や、器を締め付けるように固定できる「輪ゴム」が役立ちます。また、複雑に割れた器を正しい位置で保持するために、箱の中に詰め込んだ「おがくず」や「砂」に器を埋めて固定することもあります。この段階でズレが生じると後の工程すべてに響くため、正確な固定を助ける小道具は非常に大切です。
刻苧盛りで使う道具
大きな欠けを埋める「刻苧(こくそ)盛り」の工程では、パテ状の材料を成形するための道具が主役になります。生漆に木粉や砥粉を混ぜた刻苧を練るためのヘラはもちろんですが、欠けた部分に材料を押し込み、器の形に合わせて滑らかに整えるための「彫刻刀」や「スパチュラ(パレットナイフ)」があると便利です。
特に、器の縁(ふち)の部分を再現する際には、指先やヘラだけでは細かい造形が難しいため、金属製の小さなスパチュラが重宝します。また、一度に厚く盛らずに、乾いてからさらに盛り足す作業を繰り返すため、前回の塗りを軽く荒らして密着度を高めるためのヤスリも併用します。この工程は金継ぎの中で最も「造形的」な部分であり、粘土細工のような感覚で道具を使い分けることになります。
錆漆塗布と乾燥管理道具
表面の細かな段差を埋める「錆漆(さびうるし)塗布」では、平らな面を出すための「平ヘラ」が活躍します。砥粉と生漆を混ぜた錆漆を薄く均一に塗り広げることで、後の研ぎ作業が格段に楽になります。ヘラは、漆の薄塗りに適した、先が薄く加工されたものを選ぶのがコツです。
そして、この工程で最も重要なのが「乾燥管理」です。天然の漆は湿度が70〜80%程度ないと固まらないため、「室(むろ)」と呼ばれる乾燥箱が必要になります。家庭では、プラスチック製の収納ケースや段ボール箱の内側に濡れタオルを敷くことで、簡易的な室を作ることができます。室内の湿度と温度を管理するための「温湿度計」も、漆を確実に硬化させるために欠かせない管理ツールの一つと言えます。
金粉蒔きで使う筆と容器
いよいよ仕上げの「金粉蒔き」の工程です。ここでは、非常に繊細な「あしらい筆」や、金粉を均一に散らすための「粉蒔き筒(ふんまきづつ)」が使われます。金粉は非常に軽いため、息やわずかな風で飛んでしまわないよう、静かな環境で作業を行う必要があります。
金粉を蒔く際は、少量の粉を「粉皿」に取り、あしらい筆の先に含ませて、漆を塗った部分に優しく置いていくようにします。筒を使う場合は、竹製の筒の先に絹の網が貼られたものを用い、筒を軽く叩くことで粉を均一に落とします。高価な金粉を無駄なく扱うために、作業台には「毛通し(けとおし)」と呼ばれる柔らかい大きな刷毛を用意し、周囲に散った金粉を一箇所に集めて回収できるようにしておくのがプロの工夫です。
研磨と成形のヤスリ類
漆が完全に固まった後、表面を平滑に整えるために様々な「ヤスリ」を使い分けます。最初は1000番程度の「耐水ペーパー」で、盛り上がった漆や錆漆を周囲の高さまで削り落とします。さらに細かい1500番、2000番と番手を上げていくことで、表面は徐々に滑らかになり、漆独特のしっとりとした質感が出てきます。
細かな隙間や複雑な形状の場所には、スティック状にカットしたヤスリや、小さなダイヤモンドやすり、あるいは「木砥(きど)」と呼ばれる硬い木片に研磨剤をつけて擦ることもあります。研磨は、仕上がりの「触り心地」を左右する重要な作業ですので、指先で感触を確かめながら、丁寧に面を整えるための各種研磨ツールが必要とされます。
仕上げ磨きの布と磨き剤
金継ぎの最後を飾るのが「仕上げ磨き」です。特に「丸粉」を使った場合は、金粉の層を研ぎ出し、磨き上げることで本物の金属のような輝きを引き出します。ここで使われるのは、「磨き粉(角粉やコンパウンド)」と、それを塗布するための「セーム革」や「脱脂綿」、あるいは「柔らかい布」です。
伝統的な手法では、植物油(菜種油など)と角粉(鹿の角の粉)を指先につけ、円を描くように優しく磨き上げます。指の腹の体温と適度な圧力が、漆と金を最も美しく輝かせると言われています。最近では、より手軽に使える液体状の金属磨き剤や、極細繊維のクロスも使われますが、大切なのは器を傷つけずに輝きだけを引き出す、繊細な素材の選定です。
目的別と予算別で選ぶ道具ガイド
金継ぎへの関わり方は人それぞれです。「まずは一回試してみたい」という方から、「一生の趣味として極めたい」という方まで、目的に合わせた道具選びの基準をご紹介します。ご自身の予算やライフスタイルにぴったりの構成を見つけてください。
低予算で揃えるおすすめ構成
予算を抑えて金継ぎを始めたい場合は、100円ショップやホームセンターの道具を活用し、肝心な材料だけを単品で購入するのが得策です。例えば、接着に使うヘラや筆、ヤスリ、ゴム手袋、マスキングテープ、菜種油などは100円ショップで十分な品質のものが手に入ります。
一方で、作品の質に直結する「生漆」「絵漆」「金粉(または真鍮粉)」だけは、伝統工芸品を扱う専門店や通販で購入しましょう。特に本物の漆は少量でもそれなりの価格がしますが、最近では50g程度の少量チューブも販売されています。仕上げを金粉ではなく真鍮粉(しんちゅうふん)にすれば、材料費を大幅に抑えることができます。このように「代用できるもの」と「本物にこだわるべきもの」を分けることで、数千円程度から金継ぎの世界に足を踏み入れることが可能です。
中級者向けに買い足すアイテム
数個の作品を仕上げて金継ぎに慣れてきたら、作業効率とクオリティを上げるための専用道具を買い足しましょう。まずおすすめしたいのは、より繊細な線が描ける「高品質な面相筆」です。弘法筆を選ばずと言いますが、やはり高級な鼬(いたち)毛などの筆は、漆の含みと腰が全く違い、思い通りの細い線が描けるようになります。
また、漆を練るための専用の「ガラス板(定盤)」や、漆の量を正確に計れる「デジタル精密秤」もあると便利です。さらに、乾燥管理をより厳密にするための「電子式温湿度計付きの室(むろ)」を自作したり、仕上がりの艶を追求するための「特製磨き粉」や「鯛牙(たいき:磨き用の道具)」などを揃えていくと、作品の完成度がプロの領域に近づいていきます。
伝統派向けの本格道具
「やるからには伝統的な手法で、最高の道具を使いたい」という伝統派の方には、やはり日本古来の素材にこだわった道具選びが最適です。漆は産地が明確な「日本産純生漆」を選び、金粉は不純物のない「24金消粉」や「丸粉」を用意します。筆も、職人が一本ずつ手作りした伝統的な漆筆を揃えます。
さらに、研ぎに使う炭も「駿河炭」などの天然の木炭を使い、磨きには「鹿の角を焼いて作った角粉」と「菜種油」を用いるのが王道です。これらの道具は非常に高価で手入れも大変ですが、天然素材同士が引き立て合うことで生まれる深い味わいは、現代の合成素材では決して得られないものです。道具を育てることも含めて、金継ぎという文化を丸ごと楽しみたい方にふさわしい選択です。
時短派向けの簡易道具
「漆のかぶれが心配」「もっと短時間で完成させたい」という方には、現代の化学素材を使った「簡易金継ぎ(モダン金継ぎ)」という選択肢があります。これは、天然漆の代わりに「エポキシ樹脂(接着剤・パテ)」や、合成うるし(新うるし)を使用する方法です。
これらの道具のメリットは、なんといっても「速乾性」と「扱いやすさ」です。天然漆が乾燥に数日かかるのに対し、エポキシ樹脂なら数分から数十分で固まります。また、湿度の高い「室」も必要ありません。道具もホームセンターや文房具店で手に入るものが中心で、100円ショップのネイルアート用パーツを装飾に使うといった柔軟な楽しみ方も可能です。伝統的な手法とは別物ですが、「直して使う」という喜びを最も手軽に味わえる方法と言えます。
キット選びで見るべき項目
市販の金継ぎキットを選ぶ際は、単に価格だけでなく「中身の充実度」と「解説の分かりやすさ」をチェックしてください。チェックすべき項目は以下の通りです。
- 漆の種類:天然の生漆が含まれているか。
- 金粉の品質:純金粉か、真鍮粉か(価格に大きく影響します)。
- 道具の有無:筆、ヘラ、ヤスリ、手袋など、買い足しなしで始められるか。
- 解説書:全工程が写真付きで丁寧に説明されているか、動画サポートがあるか。
- 安全性:パッチテスト用漆や、かぶれに関する説明が充実しているか。
特に初心者の場合、作業途中で迷うことが多いため、サポート体制が整っているメーカーのキットを選ぶと、挫折せずに最後まで完走できる確率が高まります。
おすすめ紹介:金継ぎ道具・キットの代表的ショップ
金継ぎを始める際、多くの愛好家から支持されている信頼のショップや製品をご紹介します。
| ショップ・製品名 | 特徴 | 公式サイトURL |
|---|---|---|
| つぐキット (TSUGUKIT) | 伝統的な天然漆を使いつつ、初心者に分かりやすい丁寧な解説が定評のキットです。 | https://kintsugikurashi.com/ |
| 播与漆行 (HARIYO) | 創業200年以上の老舗。プロも使う高品質な漆や金粉、専門道具が単品から揃います。 | https://www.hariyo.co.jp/ |
| 堤淺吉漆店 | 京都の漆専門店。環境に配慮した漆や、スタイリッシュな金継ぎセットを展開しています。 | https://www.tsutsumi-urushi.com/ |
| 金継ぎ暮らし | ワークショップも開催しており、現場の声を反映した使いやすい道具を販売しています。 | https://kintsugi-kurashi.shop/ |
購入と保管で差が出る道具の選び方
金継ぎの道具は、一度揃えれば長く使えるものが多いですが、漆や金粉などの「材料」は生き物のようにデリケートです。どこで購入し、どのように保管するかで、その後の作業性や仕上がりに大きな差が出ます。道具と賢く付き合うための、購入と管理のポイントをまとめました。
専門店での取扱製品
やはり一番のおすすめは、漆器の産地や伝統工芸品を扱う「漆専門店」で購入することです。専門店の道具は、職人の厳しい目にさらされて選ばれたものばかりです。例えば、漆一つとっても、産地や精製方法による特性を店主が把握しており、「初心者が扱いやすい粘度の漆」などを相談しながら選ぶことができます。
筆やヘラも、専門店で扱っているものは、漆の特性に合わせて作られているため、耐久性や使い心地が抜群です。安価な代用品ではすぐに毛が抜けたり、ヘラが折れたりすることもありますが、専門店の道具は適切に手入れすれば何年も使い続けることができます。一見、価格は高く感じるかもしれませんが、長い目で見れば「確かな品質の専門店製品」を選ぶことが、上達への近道であり、コストパフォーマンスも良くなります。
通販で買う際の確認事項
最近ではAmazonや楽天、専門店のオンラインショップで手軽に金継ぎ道具を購入できますが、いくつか注意点があります。まず「漆」については、できるだけ鮮度の良いものを扱っているショップを選びましょう。漆は古いと乾きが悪くなることがあるため、回転の良い人気店や、製造元が直接運営しているショップが安心です。
また、金粉を購入する際は「内容量(グラム数)」と「純度」を必ず確認してください。写真では大きく見えても、実際にはごく少量であることも多いです。配送方法についても、金粉は非常に軽量で高価なため、追跡可能な発送方法を選んでいるショップかどうかが、トラブルを防ぐ鍵となります。ユーザーレビューを参考に、特に「梱包の丁寧さ」や「漆の乾き具合」に関するコメントをチェックすると、ショップの信頼性が見えてきます。
実店舗でのチェックポイント
もし近くに呉服店や漆器店、画材店などで金継ぎ道具を扱っている実店舗があるなら、ぜひ足を運んでみてください。実物を見る際のポイントは、道具の「重さとサイズ感」です。特に筆やヘラは、自分の手の大きさに合っているか、持ったときにしっくりくるかを確認できます。
また、店員さんに「今持っている器のこの割れを直したい」と直接相談できるのは、実店舗ならではのメリットです。漆の色味や金粉の輝きを実際に目で見て確認できるため、完成イメージとのギャップを最小限に抑えることができます。道具の正しい手入れ方法や、その地域特有の気候に合わせた漆の乾かし方のコツなど、ネットには載っていない貴重なアドバイスをもらえることもあります。
消耗品の補充計画
金継ぎを続けていくと、特定の道具や材料だけが先になくなります。特に消費が激しいのは、ゴム手袋、マスキングテープ、耐水ペーパー、そして筆を洗うためのテレピン油や菜種油です。これらは作業の途中で切らすと作業が中断してしまうため、常に予備をストックしておきましょう。
漆については、一度開封すると少しずつ酸化が進みますので、大量にストックするのではなく、使い切れる分量を都度補充するのが理想的です。金粉も、一つの作品に使う量は意外と少ないため、最初は0.1gや0.5gといった少量単位で購入し、必要に応じて買い足すのが無駄のない補充計画です。自分がどの程度の頻度で作業するかを把握し、一ヶ月に一度程度、在庫をチェックする習慣をつけると、常にベストな状態で作業に臨めます。
漆と金粉の保管方法
金継ぎ道具の中で、最も保管に気を使うのが「漆」です。漆は熱と光に弱いため、必ず「冷暗所」で保管してください。夏場は冷蔵庫の野菜室に入れるのがベストですが、家族が食品と間違えないよう、しっかりと密閉容器に入れ、ラベルを貼っておくなどの配慮が必要です。チューブ入りの場合は、空気を抜いてから蓋を閉めることで、中身の酸化を遅らせることができます。
金粉は非常に高価で紛失しやすいため、小さな密閉容器に入れ、湿気のない場所で保管します。静電気が起きやすいプラスチック容器よりも、ガラス製の小瓶の方が、壁面に粉がつきにくく無駄がありません。また、筆は漆を完全に洗い落とした後、毛先が痛まないように油を含ませてキャップをするか、専用の筆巻きに収納します。道具一つひとつを「次の出番」のために整えて保管すること。それが、美しい金継ぎを続けるための最も大切な心得です。
金継ぎの道具選びのまとめ
金継ぎの道具は、単なる作業のためのツールではなく、器の傷を「景色」へと変えるためのパートナーです。最初はセット品から手軽に始め、次第に自分に馴染む一本の筆や、こだわりの金粉を見つけていく過程も、金継ぎという文化を楽しむ大切な要素の一つと言えます。
道具を大切に扱い、正しく管理することは、そのまま器を大切にする心に通じます。自分にぴったりの道具が揃えば、割れてしまった器を前にしたときの悲しみは、「次はどう美しく蘇らせようか」という前向きな期待へと変わるはずです。ぜひ、信頼できる道具を揃えて、金継ぎがもたらす豊かな時間と、器との新しい物語を始めてみてください。
