萩焼の貫入が持つ特徴とは!使うほど育つ風合いの秘密や正しい手入れと選び方

萩焼の魅力は、なんといっても「育てる楽しみ」にあります。その中心的な役割を果たすのが、器の表面を彩る繊細なひび模様「貫入(かんにゅう)」です。使うほどに色が変わり、風合いが増していく萩焼。貫入の仕組みや特徴を知ることで、器との暮らしがもっと豊かで愛おしいものになります。

目次

萩焼の貫入の特徴が生む風合いと扱い方

萩焼の最大の特徴は「萩の七化け」と呼ばれる経年変化です。これは表面にある貫入を通じて、お茶やお酒の成分がゆっくりと器に染み込んでいくことで起こります。新品のときとは異なる、深みのある落ち着いた表情へと育っていく過程を楽しむのが、萩焼ならではの醍醐味であり、日本の美意識の表れでもあります。

貫入の定義

貫入とは、陶器を焼いた後の冷却過程で、器の表面を覆う「釉薬(うわぐすり)」に生じる網目状のひび模様のことを指します。これは、器本体の土と、表面のガラス層である釉薬の収縮率の違いによって生まれる現象です。焼き上がったばかりの器が冷めていく際、土よりも釉薬の方がより大きく縮もうとするため、その引っ張られる力に耐えきれなくなった釉薬の表面に細かな亀裂が入ります。

このひびはあくまで釉薬の層だけに入っているもので、器本体が割れているわけではありません。むしろ、この貫入があることで器の中に空気が含まれ、断熱性が高まるという実用的な側面もあります。一般的に陶器全般に見られる現象ですが、特に萩焼においては、この貫入の入り方や密度が器の「景色」として非常に重要視されています。貫入は、器が生まれる瞬間に刻まれる、職人の意図を超えた自然の造形美と言えます。

色変化の仕組み

「萩の七化け」という言葉に象徴される萩焼の色変化は、貫入というひびを通じて行われます。萩焼の土は非常に粒子が荒く、スポンジのように水分を吸収しやすい性質を持っています。器にお茶やコーヒーを注ぐと、その液体が表面の貫入から染み込み、徐々に土の内部まで浸透していきます。お茶に含まれるカテキンやタンニンといった成分が土の粒子と反応したり、年月をかけて蓄積されたりすることで、器の色調がゆっくりと変化します。

この変化は一朝一夕には起こりません。毎日使い、丁寧に洗って乾かすという日常の繰り返しのなかで、少しずつ色が深まり、独特の艶が現れてきます。使う人によって飲むものの種類や頻度が異なるため、同じ作家が作った全く同じ形の器でも、数年後には世界に一つしかない異なる表情へと成長します。器を単なる道具としてではなく、共に時間を過ごすパートナーとして慈しむ文化が、この色変化の仕組みの中に息づいています。

見た目の特徴

萩焼の貫入は、その繊細で複雑な網目模様が最大の見どころです。釉薬の種類や厚みによって、まるで蜘蛛の巣のような細かいものから、ダイナミックで大きなひび割れに見えるものまで多様な表情を見せます。光の当たる角度によって、きらきらと反射する様子は非常に上品で、吸水性のある柔らかな土の質感と、ガラス質の硬質な貫入のコントラストが萩焼特有の「ざんぐり」とした風合いを作り出しています。

また、貫入は時間の経過とともに、よりくっきりと模様として浮かび上がってきます。染み込んだ成分によって線が強調され、あたかも最初から描かれた模様であるかのような調和を見せ始めます。新品のときには目立たなかった細かなひびが、使い込むことで「景色」としての完成度を高めていく様子は、まさに芸術品としての萩焼の醍醐味です。素朴な土の色合いと、繊細な貫入が織りなすデザインは、和洋問わずどんな食卓にも馴染む包容力を持っています。

水漏れとの関係

萩焼は他の陶器に比べて焼き締まりが少なく、土が非常に多孔質(穴が多い状態)であるため、使い始めに水が漏れることがあります。これは貫入から水分が染み出し、土の隙間を通って底から滲み出てくるためです。不良品ではなく、萩焼の「生きた土」の特徴として古くから理解されてきました。現代の生活では戸惑う方も多いかもしれませんが、この性質があるからこそ、劇的な色変化を楽しむことができるのです。

水漏れを防ぐには、後述する「目止め」という作業が必要になりますが、これもまた器を使い始めるための大切な儀式のようなものです。水漏れしやすい器は、それだけ吸水性が高く、変化のスピードも速い傾向にあります。器が水分を吸うと少しずつ土が締まり、自然と漏れは止まっていきます。自分の手で漏れを止め、器を安定させていく過程は、萩焼とのコミュニケーションの第一歩と言えるでしょう。

経年による色合い変化

数年から十数年使い込まれた萩焼は、新品のときとは全く別の趣(おもむき)を放つようになります。例えば、当初は淡いピンク色(琵琶色)をしていた茶碗が、次第に灰みがかった落ち着いた色合いに変化したり、白っぽかった釉薬が深いクリーム色へと変わったりします。この変化こそが「七化け」の本質であり、持ち主の歴史が器に刻まれていく証となります。

経年変化した萩焼は、角が取れたような丸みのある質感になり、手に持ったときの馴染みも格段に良くなります。貫入の一本一本に歴史が宿り、新品には出せない重厚感と風格が備わっていきます。茶人たちが「一楽、二萩、三唐津」と称して、特に萩焼を愛でたのは、この終わりのない変化に無限の美しさを見出したからに他なりません。完成されたものを買うのではなく、未完成の美しさを自分なりに完成させていく喜びが、萩焼の貫入には込められています。

貫入が生まれる理由と焼成のしくみ

なぜ萩焼にはこれほどまでに豊かな貫入が入るのでしょうか。その理由は、山口県萩市周辺で採れる独特な陶土と、それを焼き上げる職人の高度な技術に隠されています。土の配合から窯の中での温度管理まで、すべての工程が貫入という奇跡のような模様を作り出すために緻密に計算されています。

陶土の性質

萩焼に使用される主な土は、大道土(だいどうつち)や金峯土(みたけつち)といった、地元で採れる粘土です。これらの土は非常に粒子が荒く、砂混じりでザラザラとした感触が特徴です。耐火性が非常に高いため、高温で焼いても完全に溶け合ってカチカチに固まることがなく、内部に無数の微細な空気の穴が残ったまま焼き上がります。この「焼き締まりが少ない」という性質こそが、萩焼の柔らかさと吸水性の源です。

また、土に鉄分や不純物が適度に含まれていることで、焼き上がりに複雑な色が生まれます。この粗い土の上に釉薬をかけると、土の凹凸が釉薬の層に影響を与え、自然でランダムな貫入のきっかけとなります。職人は、数種類の土を独自の配合で混ぜ合わせることで、器の強度と、理想的な貫入の入り具合のバランスを調整しています。土そのものが持つ力強い生命力が、萩焼の風合いの土台を支えているのです。

釉薬の組成差

萩焼に欠かせないのが、長石(ちょうせき)や藁灰(わらばい)を主原料とした釉薬です。釉薬は焼成中に高温で溶けてガラス状の膜になりますが、その配合によって溶ける温度や収縮する度合いが異なります。特に、昔ながらの藁灰をベースにした「白萩釉」などは、粘り気があり、厚くかかりやすい性質があります。

釉薬に含まれる成分の比率をわずかに変えるだけで、焼き上がりの色味や貫入の密度が劇的に変化します。職人は長年の経験から、土の性質に最も適した釉薬の組成を研究し続けています。透明感のある「透釉(すきぐすり)」であれば細かな貫入が美しく透けて見え、濁りのある「藁白(わらじろ)」であれば、雪のような白さの中に力強い貫入が浮かび上がります。釉薬の配合は各窯元の秘伝とも言える重要な要素です。

素地と釉の収縮差

貫入が生まれる物理的な原因は、器の本体である「素地(きじ)」と、表面の「釉薬」の熱による収縮率の違いにあります。すべての物質は熱を加えると膨らみ、冷めると縮みますが、陶器の場合、冷める際の変化がポイントです。焼成後、窯の中で温度が下がっていくとき、素地に比べて釉薬の方がより大きな割合で縮もうとします。

しかし、釉薬は素地にしっかりと密着しているため、思うように縮むことができません。このとき、釉薬の層に強烈な引っ張られる力がかかります。その限界を超えたとき、釉薬が耐えきれず「ピシッ」という音とともに亀裂が入ります。これが貫入です。素地と釉薬の相性をあえて「少し合わない」状態に設計することで、職人は意図的に美しい貫入を作り出しているのです。この絶妙なアンバランスさが、萩焼に命を吹き込んでいます。

窯温と冷却速度

貫入の入り方を大きく左右するのが、窯の中の温度変化です。萩焼は一般的に1200度前後の温度で焼かれますが、最も重要なのは「冷まし方」です。急激に冷やすと貫入は大きく、激しく入りやすくなります。逆に時間をかけてゆっくりと冷やすと、細かく規則的な貫入が生まれる傾向があります。

登窯(のぼりがま)などの伝統的な窯では、場所によって温度や冷める速度がわずかに異なるため、一つの窯から全く同じ貫入の器が出ることはありません。火を止めた後、窯の扉を開けるタイミングを職人は秒単位で見極めます。窯の中で器が「鳴る(貫入が入る音)」を聞く瞬間は、職人にとって最も緊張し、かつ喜びを感じる瞬間です。自然の炎と温度のゆらぎが、世界に二つとない芸術品を完成させます。

釉の厚みの影響

釉薬をどのくらいの厚さでかけるかも、貫入の表情を決定づけます。一般的に、釉薬が厚くかかっている場所ほど、素地との収縮差による力が大きくなるため、太くて力強い貫入が入りやすくなります。逆に釉薬が薄い場所では、細かくて繊細な貫入、あるいは目に見えないほど微細な貫入になります。

萩焼の器をよく見ると、縁の部分は薄く、底に近い部分は釉薬が溜まって厚くなっていることが分かります。この厚みのグラデーションによって、一つの器の中に多様な貫入が共存し、見る角度によって異なる表情を楽しむことができます。職人は、浸し掛けや柄杓掛けといった技法を使い分け、あえて釉薬のムラを作ることで、景色に深みとリズムを与えています。

伝統的な焼成法

萩焼の真髄は、今なお守り続けられている「登窯」での焼成にあります。斜面に築かれた複数の部屋を持つ登窯では、赤松を燃料として数日間かけてじっくりと焼き上げます。ガス窯や電気窯とは異なり、薪の灰が器に降りかかったり、炎が直接当たったりすることで「窯変(ようへん)」と呼ばれる予期せぬ色の変化が起こります。

登窯での焼成は温度管理が非常に難しく、天候や薪の質にも左右されますが、この不安定さこそが豊かな貫入と風合いを生みます。低温でじっくりと焼かれた器は、粘土の質感を損なうことなく、柔らかい肌合いを保ちます。この伝統的なプロセスを経て生まれる貫入は、現代的な効率化された製造法では決して再現できない、深みと魂が宿ったものになります。

貫入の見え方と真贋の見分け方

萩焼を手に取るとき、その貫入や質感をどう観察すればよいのでしょうか。本物を見極める目は、細かな部分への観察力から養われます。偽物や模倣品には出せない、手仕事ならではの痕跡が高台(こうだい)や貫入の入り方に現れます。

表面のひび模様の種類

貫入の入り方には、大きく分けて「氷裂(ひょうれつ)」と「網目(あみめ)」があります。氷裂は氷が割れたような大胆な線で、釉薬が厚いときに出やすい力強い模様です。一方、網目は非常に細かく規則的なひびで、繊細な美しさを放ちます。萩焼の場合、これらが混ざり合い、自然な不均一さを持っていることが「本物」の証です。

機械で作られた安価な製品でも貫入を模した模様をつけることは可能ですが、それらは線が画一的で奥行きがありません。本物の萩焼の貫入は、釉薬の層の奥から立ち上がってくるような立体感があり、光を当てると内側できらめく様子が観察できます。模様そのものが「描かれた」ものではなく、物理的な力の結実として「生まれた」ものであるかどうかが、見分けるポイントとなります。

色むらの見方

萩焼には「御本手(ごほんで)」と呼ばれる、淡い紅色の斑点が現れることがあります。これは焼成中に酸素が不足する還元状態になることで、土の中の成分が反応して生まれる美しい「色むら」です。貫入とこの色むらが組み合わさることで、器にえもいわれぬ深みが生まれます。

偽物や質の低い作品では、この色むらを着色剤で人工的に再現しようとしますが、その境界線が不自然に鮮やかすぎたり、グラデーションが単調だったりします。本物の色むらは、炎のゆらぎによって偶然生まれたものですので、ぼんやりと滲むような、優しく温かみのある広がり方をしています。貫入の間を縫うように広がる色の階層をじっくり観察してみてください。

高台の観察点

器の底にある足の部分、「高台(こうだい)」は、職人の個性が最も色濃く現れる場所です。萩焼特有の特徴として、高台の一部をヘラで切り欠いた「切高台(きりこだい)」という伝統的な意匠があります。これはかつて、庶民が使う器を「お殿様への献上品ではない」と区別するためにわざと傷をつけたのが始まりと言われています。

高台の削り跡がシャープすぎず、かといって雑すぎない、熟練のヘラ使いを感じさせるかどうかに注目しましょう。また、高台の部分には釉薬がかかっていない「素土(すど)」が露出しています。この土の質感(ざらつきや色合い)が、前述した大道土特有の粗さと一致しているかどうかも重要な真贋の基準になります。高台は器の「顔」と同じくらい、その正体を雄弁に語ってくれます。

裏側の観察点

器をひっくり返して裏側を観察することも欠かせません。萩焼の裏側には、焼成時に窯の中で器同士がくっつかないように置かれた「目跡(めあと)」や、貝殻を敷いた跡が残っていることがあります。これらは伝統的な登窯での手仕事の証拠です。

裏側の釉薬のタレ具合や、高台周りの削り出しの丁寧さもチェックしましょう。丁寧な仕事をしている作家の器は、見えない裏側まで神経が行き届いています。逆に、模倣品は表面だけを整えて裏側の処理が甘かったり、素材が軽すぎたりすることがあります。萩焼は手に持ったときに、見た目のボリュームに比べて意外なほどの「重み」と「密度の高さ」を感じるものです。その質量の感覚を覚えることも、鑑定の助けになります。

水漏れの簡易チェック

真贋というよりは「状態」のチェックになりますが、萩焼の貫入と水漏れの関係を確認することは実用的です。器を水に浸した際、貫入が水を吸って色がわずかに濃くなる様子が見られれば、それは吸水性の高い伝統的な陶土と釉薬が使われている証拠です。

もし水を全く弾いてしまい、変化が全く見られない場合は、表面にシリコンなどの強力な撥水コーティングが施されている可能性があります。現代の日常使いには便利ですが、萩焼の醍醐味である「七化け」は期待できません。伝統的な風合いを求めるのであれば、水が素直に染み込んでいく「素直な器」であるかどうかを確認することが一つの基準になります。

修復跡の見分け方

貴重な萩焼の場合、過去に割れや欠けを直した「修復跡」がある場合があります。特に「金継ぎ」で直されているものは、それ自体が新たな価値として認められることもありますが、単に接着剤で固めただけのものは価値が下がります。

貫入に混じって不自然な「線」がないか、光を透かして確認しましょう。接着剤の跡は、紫外線を当てると光ったり、触れたときにそこだけ温度や質感が違ったりします。本物の貫入は釉薬の内側の亀裂ですが、修復跡は表面の断裂です。古美術としての萩焼を扱う際は、貫入の美しさを楽しみつつ、その隙間に隠れた人工的な改変がないか、虫眼鏡などを使って慎重に見極める必要があります。

普段使いでの手入れと注意点

萩焼を長く楽しむためには、少しだけ丁寧な手入れが必要です。吸水性が高いという特徴は、一方で汚れやカビを呼びやすいというデリケートな一面でもあります。器を清潔に保ちながら、貫入の美しさを最大限に引き出すための、日常の付き合い方をご紹介します。

日常の洗い方

萩焼を洗う際は、なるべく中性洗剤を使用し、柔らかいスポンジで手洗いすることを心がけてください。吸水性が強いため、強力な洗浄剤や研磨剤入りのタワシは器の表面を傷め、不要な化学物質が貫入に入り込む原因になります。また、食洗機の使用はおすすめできません。高温の高圧洗浄や乾燥機能は、柔らかい萩焼の土を傷めたり、他の食器とぶつかって欠けたりするリスクが高いからです。

洗った後は、すぐに水気を拭き取りましょう。貫入に水分が残ったまま放置すると、そこから雑菌が繁殖しやすくなります。器の表面は乾いているように見えても、多孔質の土の内部には水分が保持されています。洗い終わった後、できれば風通しの良い場所で一晩しっかりと陰干しするのが、器を清潔に保つ秘訣です。

急冷急熱の避け方

陶器は全般的に熱ショックに弱い性質がありますが、特に収縮差で貫入ができている萩焼はデリケートです。冷え切った器にいきなり沸騰したお湯を注いだり、逆に熱い器を急に冷水につけたりするのは絶対に避けてください。急激な温度変化によって、貫入以上の「本当のひび割れ」が生じてしまう恐れがあります。

冬場などは、熱い飲み物を入れる前にぬるま湯で器を温めておくのが賢明です。また、電子レンジやオーブンの使用も原則として不可です。水分を吸いやすい性質上、加熱によって内部の水分が膨張し、器が爆発するように割れてしまう危険があります。伝統の器を「調理器具」としてではなく、完成された「作品」として扱う優しさが求められます。

シミの除去方法

「萩の七化け」を楽しむ一方で、望まないシミ(食べ物の油汚れや色素)がついてしまったときはどうすればよいでしょうか。基本的には、ついてしまったシミも器の歴史として受け入れるのが萩焼の美学ですが、どうしても気になる場合は「煮沸」が有効です。

大きな鍋に米のとぎ汁を入れ、その中に器を沈めて20分ほど弱火で煮込みます。米のでんぷん質が汚れを吸着し、同時に土の隙間を埋めてくれるため、シミが薄くなることがあります。漂白剤の使用は極力避けてください。貫入から薬剤が深く染み込んでしまい、健康上の懸念があるだけでなく、萩焼特有の土の匂いや風合いを損なわせる原因になります。

漏れが出た時の応急処置

もし使い始めにポタポタと水が漏れる場合は「目止め」を行います。最も一般的なのは、米のとぎ汁や、小麦粉を溶いた水で器を煮る方法です。でんぷんの粒子が貫入や土の隙間に入り込み、乾燥することで糊の役割をして穴を塞いでくれます。

一度で止まらない場合は、冷めるまでそのまま鍋の中に放置し、その後しっかりと乾燥させてから再度試してみてください。それでも止まらない重度の漏れには、濃い目のお粥を作って器に入れて数時間置くという、より強力な手法もあります。手間がかかりますが、自分の手で器を使える状態に仕上げていくこの過程こそ、萩焼と心が通い合う瞬間でもあります。

保管時の湿度管理

萩焼をタンスや食器棚にしまう際、最大の敵は「湿気」です。完全に乾いていない状態で密閉された空間にしまうと、貫入から吸収された水分が原因でカビが生えてしまいます。一度土の内部に生えてしまったカビを取り除くのは至難の業です。

長期保管する場合は、風通しの良い場所で数日間しっかりと乾燥させてから、乾燥した布や新聞紙に包んで保管してください。時折、棚から出して空気を通す「虫干し」を行うと、器の状態を良好に保てます。湿度の高い日本の夏場は特に注意が必要ですが、季節の移ろいを感じながら器を管理することも、茶人たちの粋な楽しみ方の一つでした。

臭い移りの対策

吸水性が高い萩焼は、食べ物の臭いも吸収しやすいという特徴があります。特にカレーやキムチ、魚料理といった香りの強いものを長時間入れておくと、洗っても臭いが残ってしまうことがあります。これを防ぐ最も簡単な方法は、料理を盛り付ける前に「器を水に数分浸しておく」ことです。

あらかじめ土にきれいな水を含ませておくことで、料理の汁や油が貫入に浸透する余地をなくすことができます。このひと手間(水通し)だけで、臭い移りや油シミを大幅に軽減できます。また、使用後は放置せず、できるだけ早く洗うことも大切です。器を大切にするための小さな習慣が、萩焼の美しさを長く守ってくれます。

長持ちさせる使用習慣

萩焼を「一生もの」にするためには、一つの器を毎日酷使するのではなく、時折休ませることも大切です。数種類の器をローテーションで使うことで、器がしっかりと呼吸し、土の状態が安定します。また、器を重ねて収納する際は、間に薄い布やペーパータオルを挟むと、表面の貫入や縁の欠けを防ぐことができます。

使い込むほどに変化する萩焼ですが、その変化のスピードをゆっくりと楽しむ余裕を持ってください。急いで色を変えようと濃いお茶に浸しっぱなしにするよりも、日々の暮らしの中で自然に変化させていくほうが、結果として品格のある美しい「景色」へと育ちます。器の声を聴きながら、共に歳を重ねていく感覚を大切にしましょう。

貫入を楽しむための器選びと活用法

いざ萩焼を購入しようと思ったとき、数ある中からどれを選べばよいか迷ってしまうものです。用途や自分の好みにぴったりの一枚に出会うためのポイントと、日々の暮らしでの活かし方についてアドバイスします。

用途別の選び方

萩焼といえば抹茶碗が有名ですが、現代では湯呑み、マグカップ、皿、花瓶など多岐にわたります。まず最初の一枚としておすすめなのは、やはり「湯呑み」です。毎日お茶を飲む習慣があれば「萩の七化け」を最も身近に、かつスピーディーに体感することができます。

料理を盛り付ける「皿」を選ぶ場合は、釉薬がしっかりかかっているものを選びましょう。ふちの立ち上がりが緩やかなものは、手に持ったときに萩焼特有の土の柔らかさをダイレクトに感じられます。また、花瓶(花入れ)は貫入が水を美しく透過させ、花を引き立てる落ち着いた雰囲気を持っています。どのようなシーンで使いたいかをイメージし、その場に馴染む形を選んでみてください。

色合いの選び方

萩焼の色は、土と釉薬の反応によって無限のバリエーションがあります。伝統的な「琵琶色(びわいろ)」は、使うほどに飴色へと深まっていく過程が美しく、最もポピュラーな選択です。一方で、真っ白な釉薬が特徴の「白萩(しらはぎ)」は、清潔感があり、料理の色を鮮やかに引き立てます。

また、青みのある「青萩」や、黒い釉薬がモダンな「黒萩」などもあり、現代の食卓にも合わせやすいデザインが増えています。貫入が最もよく見えるのは明るい色味の器ですが、暗い色の器は貫入が控えめに光り、大人っぽいシックな印象を与えます。自分の直感で「美しい」と感じる色を選ぶのが一番ですが、経年変化後の姿を想像して選ぶのも萩焼ならではの楽しみです。

手触りとサイズの見方

萩焼は「観る」だけでなく「触れる」芸術です。手に持ったときにしっくりくる重さか、指先に伝わる土の粒子のざらつきが心地よいかを確認しましょう。萩焼の土は空気を含んでいるため、見た目の厚みに反して軽く、熱が伝わりにくい(冷めにくい)という特性があります。

サイズ選びでは、自分の手の大きさに合っているかを重視してください。特に毎日使うカップなどは、持ちやすさが愛着に直結します。貫入の入り方も、大きな模様は大胆で男性的な印象、細かな模様は繊細で女性的な印象を与えます。実店舗で実際に手に取れる場合は、その「重量バランス」と「肌触り」をじっくり確かめてみることをおすすめします。

作家や産地の見分け方

萩焼は山口県萩市を中心に、隣接する阿武町や長門市などで作られています。窯元によって「大道土」と「見島土」の配合比率が異なり、それが作風の違いとなります。多くの器には、底面や共箱(ともばこ)に作家の印やサインが入っています。

伝統的な三輪窯や坂窯といった名門から、現代的なセンスを持つ若手作家まで層が厚いため、自分の好みの「印」を覚えるのも楽しみの一つです。有名な作家の作品は貫入の入り方にも気品があり、計算された美しさを感じさせます。産地証明のシールや、伝統工芸品の指定マークがついているかを確認することも、品質を保証する一つの目安となります。

価格帯の目安

萩焼の価格は、普段使いの小皿であれば3,000円前後から、日常用の湯呑みなら5,000円〜10,000円程度が一般的です。一方で、著名な作家による抹茶碗や一点物の作品になると、数万円から、高いものでは数十万円以上の価格がつくこともあります。

初心者の方は、まずは数千円代の手に取りやすい器から始め、「七化け」の面白さを体験してみるのが良いでしょう。値段が高いからといって必ずしも自分にとって良い器とは限りません。貫入の美しさや手に馴染む感覚など、価格以上の価値を感じられる自分だけの一枚を見つけるプロセス自体が、萩焼選びの醍醐味です。

贈り物としての選び方

萩焼は、その温かみのある風合いから贈り物としても非常に喜ばれます。特に「育てる楽しみ」があるため、結婚祝いや新築祝いなど、これから新しい生活を始める方へのギフトにぴったりです。贈り物には、変化が分かりやすく、使い勝手の良いペアの湯呑みや飯碗が定番です。

選ぶ際は、萩焼の特徴である「貫入」や「七化け」について簡単に説明したカードが添えられているものを選ぶと、相手も安心して使い始めることができます。また、贈り物には「共箱」と呼ばれる木箱に入ったものを選ぶと、格調高く、より大切に扱ってもらえるでしょう。使うほどに深まる色は、贈り主との関係の深まりにも重ね合わせることができ、心のこもったギフトになります。

おすすめ紹介:伝統と現代が息づく萩焼の窯元・ショップ

貫入の美しさを存分に味わえる、信頼の窯元とオンラインショップをご紹介します。

窯元・ショップ名特徴公式サイトURL
萩焼窯元 萩陶苑伝統を守りつつ、現代のライフスタイルに合わせたお洒落なデザインが豊富です。https://www.hagitoen.com/
陶房大桂庵樋口窯伝統工芸士による手仕事の極み。貫入の入り方が非常に美しく、格調高い作品が揃います。https://www.taikeian.net/
萩焼窯元 萩朱陶苑萩焼の伝統的な「ざんぐり」とした土味を活かした、力強い作風が魅力です。https://hagiyaki-shutouen.com/

萩焼の貫入を楽しむために

萩焼の貫入は、単なる表面のひびではなく、器が生きている証です。使うたびにお茶を吸い、色を変え、艶を増していく姿は、私たちに「変化を受け入れ、慈しむ」という心の余裕を教えてくれます。新品の美しさはもちろんのこと、十年後の使い込まれた姿にこそ、真の価値が宿ります。

完璧なもの、変わらないものを求めがちな現代において、あえて「変わり続ける器」を選ぶ。それは日常の何気ないティータイムを、特別な時間へと変えてくれるはずです。まずは一枚、あなたの感性に響く貫入を持つ器を選び、一緒に歳を重ねる楽しみを始めてみてください。あなたの手の中で、器はゆっくりと、あなただけの色に染まっていきます。

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この記事を書いた人

日本の伝統文化について、由来や意味を知ることが大好きです。 伝統工芸、風習、慣習の背景を知るたびに、日常の見え方が少し変わる気がしています。生活の中で楽しめる知恵が見つかるといいなと思います。
忙しい毎日の中で、ほっと一息つけるような情報を届けられたらうれしいです。

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